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弟のための希望と父親への絶望との狭間で 14の文学賞受賞作 『本当の人生』

 

 

 

突然ですがあなたにとって一番大切な人は誰ですか?

 

 

これは人によって答えが変わることだと思います。

例えば友人だったり、恋人だったり、家族だったり。

みんな大切だから決められないという人もいるでしょう。

 

僕自身にその質問をしたとすると、絶対に「家族」ですね。

「誰が死んだ時一番悲しいか?」

それを考えた時に、「家族の死」が最も心にきます。

 

同じ答えの人も多くいるでしょう。

生まれた時から長いこと一緒にいる人ですもんね。

 

では、その家族、特に親がとんでもない毒親だった場合はどうなるのか?

それを色濃く描いた小説が、アドリーヌ・デュドネ=著の『本当の人生』です。

 

 
 
ほんわかした表紙の絵と、表紙をめくった際に書いてある、事故を機に変わってしまった弟を取り戻すための利発な少女の試みは?という内容のあらすじ。
そして、「本当の人生」というタイトルから、
「少女が成長して、弟のためにやってきたことが回りまわって、もっと大切なものを手にする。そして少女は本当の人生を手に入れる。」
そんな物語かなと勝手に想像をしていました。
 
 
ですが、その想像はあらゆる意味で覆されることになりました。
 
 
家には部屋が四つあった。
わたしの部屋、弟のジルの部屋、両親の部屋、そして死体の部屋だ。
 
 
この書き出しの文章から、いきなり不穏な空気が漂っています。
「あれ?思ってたのと違う?」
1ページ目からそう思わずにはいられなくなります。
そして、読み進めていくと基本的なことが分かり始めます。
 
高圧的で暴力的な父親
父を恐れアメーバのように個性を消して生きている母親
その両親を軽蔑している自分
無邪気で守るべき存在である弟ジル。
 
最初にした
「あなたにとって最も大切な存在はだれか?」
という質問。
これをこの物語の主人公に投げかけたとすると、帰ってくる答えは
「ジル一択」
それほどに弟を愛しています。
 
その弟であるジルがある事故をきっかけに笑顔を失ってしまいます。
それどころか、彼の暴力的な部分が目覚め、動物などに虐待をし始めるようになってしまいます。
 
それを目の当たりにした主人公は、ジル本来の人格ではなく、頭の中に悪い虫が取りついたからだと結論付け、本来のジルを取り戻そうと計画します。
その計画というのが、きっかけになった事故をなかったことにする。
つまり、タイムマシンを作るというものでした。
 
それを可能にするために主人公は必死に科学を勉強します。
しかし、そこで出てくるのが暴力的な父親。
 
彼は気に食わない事が積み重なっていくと、それを母親にぶつけて発散する癖がありました。
時には、母親の顔を何度もテーブルにぶつけるほどのひどさで。
 
しかしそれは母親にだけ向けたものではなく、自分の気に障るものすべてに向けたもの。
つまり科学を必死に勉強する主人公は父親にとって、自分より賢い、自分をバカにする存在だと敵意を向けられる可能性があるのでした。
 
タイムマシンを作るための行動を、父に悟られないようにこっそり行っていく緊張感がこの小説の特筆すべき醍醐味
ターゲットに見つからず、目的を果たそうとする様はまるでスパイ映画を観ている時のような感覚を思わせます。
 
 
緊張感の中で疾走していく物語。
次の区切りまで読もうと決めていたはずが、止まらない手。
そして、読み終わった後にふと気づくのです。
 
 
タイトルの「本当の人生」ってなんだったんだ?
 
 
言ってしまうと、物語内で本当の人生とはなんぞやという回答が示されていないのです。
 
弟のために頑張る人生のことなのか、事故が起こらず、ジルの笑顔が失われなかった人生のことなのか。
それとも父親との確執の末のこれからの人生のことなのか。
あるいは、この小説を読んだ読者に「本当の人生を生きて欲しい」という作者からのメッセージなのか。
 
この「本当の人生」の意味を解読し、自分なりの答えを見つけ出せたとき、僕達は自分の「本当の人生」を歩むことになるのかもしれません。
 
 

 

 

 

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